「……、」
言葉を詰まらせる新太に、私は一瞬力のゆるんだ手をふりほどき、そのままサンダルを乱暴に脱ぎ捨て、家の中へと戻って行った。
大きな足音をたて自分の部屋へと駆け込むと、思いきりドアを閉める。
バン!と力強く閉じたドアは、全てを遮るように。
本当は、心の底では分かってる。
いつまでもここにはいられないこと。
いつか、帰らなくてはいけない。その現実ときちんと向き合えるように、新太は期間を定めたこと。
だけど、臆病なこの心はその優しさにどこまでも甘えようとしていた。
新太と出会って、その優しさに触れて、少しずつ世界が変わる気がしてた。
この街の空気は、景色は、今まで私が知っていたものとはまた違うから。
世界はもっと広いこと
温かな手があること
知れた気が、していたんだ。
けど、世界が変わろうと広かろうと、私はずっとこのままだ。
つらくて、こわくて、弱いまま
なにも変わらない自分が箱から出ても、未だそこは箱の中。
このままでいい、変われなくていいんじゃない。
ただ、変わる勇気がないだけだ。
冷静になれば自分の本音なんてこんなにもわかっているのに。恐怖心が、冷静さを失わせる。
心を闇で覆うように、なにもかも見えなくしていく。
込み上げるのは、嫌な記憶ばかり。
痛い
くるしい
つらい
答えがないのなら、踏み込まないで。
真っ暗なままの世界に、心が沈んでいく。