「でもいいの?おじいちゃんが大事にしてた庭に勝手に植えて」

「大丈夫だよ。むしろじいちゃんが笑っちゃうくらい、庭中を満開にしてやろうと思って」



空の上からこの庭を見て、驚き笑うおじいちゃんを想像しているのだろう。

へへ、と笑うその顔は子供のように無邪気で、おじいちゃんのことが大好きだったのだろう気持ちが伝わってくる。



「だから、そのお花係を最初はなぎさに任せようと思って」

「任せるって……そんな大したことじゃないじゃん」

「小さなことからコツコツと。出来ることから始めるのが大切、ってね」



そう笑って、新太は土のついたままの手で私の手をそっと掴んで土に触れさせた。


ドキ、と小さく胸が鳴り、少し戸惑ってしまうのは、ひんやりとした土の温度と、温かい新太の体温とにはさまれたせいか。

それともその手の大きさを感じたからか。



……わからない、けど。

新太が言ってくれたことは、まるで、昨日浴室で私が抱えていた気持ちに対して答えるかのような言葉だと、思った。



『私に、出来ることはないのかな』



大きなことじゃなくていい。

小さなことから、ひとつひとつ、やっていこう。

ゆっくりと前を向かせてくれるようなその言葉が、嬉しい。



「なぎさが帰るときには、好きなプランターいくつか持って帰ってもいいからね」



……ところが、瞬間、新太から発せられたそのひと言にピク、と動きが止まる。



『帰るときには』



そのたったひと言で、現実に返される。

一瞬この頭の中から抜け落ちていた『一週間』という期限を、再度しっかりと言い聞かせられた気がした。