加減することない力でドアにぶつかった雑誌はバシン!と音を立て、床に落ちる。



うるさい、ほっといて、そう言うかのような音に、お母さんは続けようとした言葉を飲み込んだ。

そしてしばらく黙ったあとに、「……ごめんね」と呟いて、スリッパを履いた足音は遠ざかっていった。



イライラするのは、『なにも知らないくせに』と思うせいか、『出てこい』と言われても仕方がないと後ろめたさを感じているせいか。

分からない心のせいで、言葉ひとつすら出てこない。



そのうち、また玄関のドアの音がしたかと思えば、低い声が微かに聞こえてくる。

その音から今度はお父さんが帰ってきたことを察した。



「なぎさは?今日も部屋か?」

「……ええ。もうダメ、私どうしたらいいかわからない……」



薄いドアで仕切っただけのこの空間では、ふたりの声など聞きたくないと思っていても聞こえてきてしまう。



呆れたようなお父さんの声と、泣いているかのようなお母さんの声。

そんなふたりの様子に胸はグッと締め付けられて、息が詰まりそうになった。