「……女子高生に抱きつかれるのは嬉しいけど、せめてもっとあたるものがあればねぇ」
「ちょっと。聞こえてるんだけど」
悪かったな、当たるほど胸のない体で。
ジロ、とにらみつけると、かすかに見えたその横顔はおかしそうに笑った。
そして走り出したバイクは、颯爽と海風の中を通り抜けていく。
道路沿いに長く続く海岸の景色に見とれ、もっと見ていたいと思う。けれど細い道を一本、また一本と抜けるうちに、気づけば大きな道路が続く街のほうへとやって来ていた。
「はい、到着」
停められたバイクに顔を上げ、ここどこだろう、と辺りを見回せば、目の前には大きな建物がある。
よく見れば、そこには『西海大学 湘南キャンパス』と書かれている。
西海大学って……ここ。
驚きながらバイクを降り、ヘルメットを外すと、同じくバイクを降りる新太はふっと笑ってみせた。
「なぎさのお父さんって、うちの大学の深津先生でしょ」
「え!?し、知ってたの!?」
「まぁ、深津なんてちょっとめずらしい苗字だし、そういえば先生が前に娘が高校生って言ってたし……なぎさの顔も、見覚えあったから」
隠していたつもりが……バレていたんだ。それならそれで言ってくれればいいのに、とバツが悪い顔で新太を見た。
けど、私の顔に見覚え……?
その言葉の意味を問いかけようとすると、新太はそれより先に私の腕を引き、慣れた様子で建物内へと入っていく。