「忘れちゃうこともあるけどさ、そのたび思い出していけばいいんだよ、一節ずつ、ちょっとずつでも」
それは、歌のことを言っているようで、私の心に対して言っているようにも聞こえる。
忘れてしまう時があっても、そのたび思い出していけばいい。
ひとつずつ、すこしずつ。
「……私だけ思い出しても、むなしいだけだけど」
無意識に小さく呟いた言葉に、新太はなにかを考えたように一瞬黙り、そしてしゃがんでいた膝を伸ばして立ち上がる。
「なぎさ、おいで」
「え?」
そして突然そう言ったかと思えば、手招きをして歩き出した。
おいでって……どこに行くの?
戸惑いながらも新太に続いて歩いて行くと、砂浜からあがった道路沿いには先日後ろに乗せてくれた、新太のバイクが停めてあった。
きっとバイクで帰ってきたところで私を見つけて、一度ここに停めておいたのだろう。
そう彼の行動を想像していると、新太は先日同様、ヘルメットをひとつ私に手渡し後ろに乗るように目で示す。
「バイクでどこ行くの?」
「内緒。でも、なぎさが行って損はしないものが見られる場所だと思うよ」
「え?」
私が行って、損はしないものが見られる?
その言葉の意味はわからないけれど、ここで聞いたところで新太はきっとそれ以上は教えてくれないだろう。
そう察して、私はおとなしく新太の後ろに乗り、その体にギュッとしがみついた。