「じゃあ、なんで笑ってたの?」
「そりゃあ、嬉しかったから」
「え?」
嬉しかったって……なにが?
疑問を声に出さずとも、私の不思議そうな顔から心の声が読みとれたのだろう。新太は言葉を続ける。
「今まで家の中にいるだけだったなぎさが、自分から外に出てるって、そう思ったら、嬉しくて」
そう言ってこちらに向けられた新太の笑顔は、水面に反射した光に照らされ、キラキラと輝きキレイだ。
直視できないくらい眩しいその表情に、くらみそうになる目を細めた。
「……なんで新太がよろこぶわけ」
「なんでだろうねぇ」
なんで、か。
きっと理由はあるのだろう。けど彼はそれを悟らせないように、笑って誤魔化した。
なんとなく、それを深く探ることは出来ず、私も気づかない振りで話題を戻す。
「さっきの歌……よく続き知ってたね」
「うん。やっぱり海見ると一番最初にあの歌が出てきちゃうよね。ちなみに俺、最後まで歌えるよ」
ふふん、と誇らしげに笑うと、新太はたのんでもいないのに続きを歌い始める。
それを目を閉じて聞けば、穏やかな彼の歌声は、子守唄のように聞こえた。
「……本当、よく覚えてるね。私すっかり忘れてた」
「じいちゃんがよく歌ってたんだ。しかも演歌調で、『うぅ~みぃはぁ~』って」
「はは、なにそれ」
まるで演歌歌手のような歌い方をする、新太のおじいちゃんのマネがおかしくて、つい笑う。
そんな私に新太は目尻にシワを寄せ笑うと、頭をポンポンと撫でた。