門を出て家の外に出ると、意外と坂の上に家があったことを知る。
波の音は、この下からだ。
音に誘われるがまま細道を歩き坂を下り、狭い道に家がひしめき合う住宅地を抜ける。
そして10分ほど歩いた先には、一面に切りひらくような大きな海が広がっていた。
「……わ……」
冬の海、ということで人はおらず静けさが漂う。
けれど、太陽が水面に反射しキラキラと光る景色は綺麗だ。
そういえば、こうして海を見るなんて小学生の頃以来。
……一度だけ、お父さんお母さんと行ったっけ。
どこの海だったかは覚えていない。けれど、楽しかったという記憶だけが強く残っている。
水着ではしゃぐ三人の姿を、殺風景なこの浜辺に重ね思い浮かべると、胸がぎゅっと痛くなった。
道路から浜辺におりると、くたびれたスニーカーを履いている足は、さらさらとした砂にサク、と埋まる。
足を取られながらも一歩一歩と近付けば、先ほどより大きく、ダイレクトに聞こえるザザン……という波の音。
寄せては返す波を、じっと見つめた。
「……うーみーは、ひろいーな、おおきーいーなー……」
海を目の前にしてつい口ずさみたくなる歌は、子供の頃から変わらない。
けれど、そのワンフレーズで歌は止まってしまう。
「……続き、なんだっけ」
あの時もふたりが歌ってくれていた気がするんだけど、思い出せない。
……まぁ、いっか。
忘れてしまったものは仕方がない。
そう割り切れる歌と同じように、思い出も忘れられたら、いいのに。