「じゃあ、この家は引きこもるにはちょうどいいかもね」
「え……?」
「どの部屋も風通しいいし、日当たり良好だし。真っ暗な部屋にこもるより、絶対いい気持ちで眠れるよ」
ちょうど、いい?
いい気持ちで、眠れる?
思わぬそのひと言に、驚いてしまう。
「……本気で言ってる?私、不登校だよ?普通じゃないんだよ?」
「学校へ行けるのが普通で当たり前なんて、誰が決めたの?」
疑問を投げかけると、逆に投げかけられてしまう。
いや、確かにそうだけど……。
学校に行けていない自分がおかしい、ずっとそう思ってきたから、驚きをいっそうかくせない。
そんな私に、新太は至って変わらぬ笑顔のまま。
「学校に行けなくたっておかしいことじゃないよ。だって、世界は学校だけじゃないもん。それに、大きい窓から違う景色を見てみるのも、人生の中で大切なことになるとも思うよ」
そうあまりにも堂々と言い切った彼に、少し衝撃を感じた。
『学生』と呼ばれる年頃の私たち。だけどその世界は、学校だけじゃない。
ましてや、暗い部屋だけでもない。
人と違う場所から見る景色もきっと、大切なことのひとつになる。
……へんな、人。
自分が抱いていたものとはまるで違う価値観を持った人。
驚き戸惑ってしまうけれど、胸にしみるその言葉に、心が軽くなるのを感じた。
逃げているにしか過ぎない、今この瞬間も、人生の中では大切な時間のひとつだと、肯定してくれている気がした。
そう思うと、不思議と小さな笑みがこぼれる。
彼との、一週間だけの限られた時間。
その中で私は、なにか変わることが出来るのかな。
顔を上げ向き合う勇気を、得られることはできるのかな。
わからないけれど、頬を撫でる朝の風が、ほんの少し心地いい。
久々に太陽の光を浴び、体を動かした朝
久々に、ごはんがおいしいって、そう思えた。