「ううん、違うよー。けどいい先生になりそう?そうかそうか、信頼ありそうに見えちゃうかぁ、やっぱりにじみ出る人望は隠せないというか……」

「いや、こんな能天気そうな人が先生だったら嫌だなぁって」

「すごい言われ方だね!?」



すぐ調子にのるタイプの人だ。ちょっと面倒くさい。

あしらうように会話をしながら、目玉焼きに醤油をサーッとかける私の前で、彼はソースを少しだけかけた。



「俺はトレーナー志望なんだ。スポーツトレーナーっていって、スポーツをする人の体の管理やサポートをする仕事」

「へー……」



スポーツトレーナー……そういう仕事もあるんだ。


体育学部という学部がどんな職に活かされるのかはおろか、自分の父親がどんなことを教えているのかすら知らなかった。

親のことを『子供に興味がない親』と思っていたけれど、自分も自分で『親に興味がない子供』だったらしい。



「今日は学校は行かないんだけど、バイトはあるから、なぎさはトラの世話よろしくね」

「世話?」

「って言っても、おやつあげたり外出ないように見てるくらいだけど。あとはテレビ見てても寝ててもいいよ。自由に過ごして」



笑いながら新太が見た先には、部屋の隅でカリカリと音をたて自分のごはんを食べているトラの姿がある。

人の食べ物をほしがったりしないあたり、しつけがきちんとできている子なんだと思う。



ふと見渡せば、家の中は静けさが漂う。

その空気に慣れたように過ごす新太とトラに対して、私はまだ、よそ者のような気持ちのままだ。



……いいのかな、私、ここにいて。

その気持ちを感じたままに、口をひらく。