ひと口飲んだ熱いみそ汁からは、みその味の中にダシの香りがふわりと漂う。

手作りなのだろう、その味になぜか安心感を覚えた。



「……おいしい」



自然とこぼれたそのひと言に、新太は嬉しそうに微笑む。



「でしょ?ダシとって作ってるんだよ」

「作ってるって……誰が?」

「俺以外誰がいるのさ」



いや、そうだけどさ……。

新太以外作る人などいないとわかっていても、いまいちイメージが湧かない。

きょとんとした顔のままの私に、新太は「あはは」とおかしそうに笑った。



……こんな大きな家に住んでいて、見ず知らずの私を泊めてくれて、おまけに料理もできる。

彼がどんな人物なのか、ますます謎が深まる。



「あの……新太って、何者?」

「何者、と聞かれても……ただの大学生としか答えようがないというか」



問いかけた私に、新太は苦笑いを見せる。

あ、でもやっぱり大学生だったんだ。年上だろう、という読みは当たってたみたいだ。



「西海大学の2年生。体育学部で勉強しながらカラオケ屋でバイトする、普通の学生だよ」



大学2年生ってことは……ハタチくらいかな。見た目通りの年齢に、ちょっと納得する。



西海大学といえばこの近く、湘南にある大学だ。

しかもそこはうちのお父さんが教授を務める大学で……偶然とはいえ、お父さんの教え子の家にこうして来てしまったなんて。

でもここで『深津の娘です』なんて言って、新太からお父さんに話が回るのもいやだし、お父さんのことは黙っていよう。



そう、余計なことは言わずに、代わりにご飯を口に押し込む。



「体育学部ってことは、体育の先生になるの?」



単純に浮かんだイメージから、そう問いかけると、新太は首を横に振る。