思い当たるものがあるのだろう。いたって普通に軒下へ手を突っ込むと、なにかをズルッと引っ張り出す。
そこから姿を現したのは、昨夜のトラ模様の猫……新太の飼い猫。
新太の長い腕にかかえられ、猫は『ニャー』と嬉しそうに鳴いた。
「こいつやんちゃでさ。下に潜り込んでときどきこうやってちょっかいだしてくるんだよね」
なら穴をふさげばいいのに……。それも飼い主の楽しみのひとつでもあるんだろうか。
呆れたような私の視線を気にすることなく、新太は長い指の先で猫の喉を小さく撫でる。
「この子、名前は?」
「トラ次郎。だからトラって呼んでる。トラ、こっちはなぎさ。仲良くするんだよ」
『ニャー』
トラ模様だからトラ次郎……安易な名づけだ。
その猫……トラ次郎、ことトラは、新太の手からおろされると、こちらへ近付き私の足元をうろつく。
「……だっこ、してもいい?」
「うん、もちろん」
かわいい、触りたい、そう思う半面動物を飼ったことはないから、ちょっと緊張してしまう。
けれど勇気を出して、私はその場にしゃがみ、人懐こいトラの小さな体をそっと持ち上げた。
細い体の予想以上の軽さに驚くと同時に、ふわ、としたその毛の感触が気持ちいい。
「ふわふわしてる……」
「うんうん、この感触がクセになるんだよねぇ」
ちょっとわかるかも。
ぬいぐるみのようなその感触にトラの頭を撫でると、トラは寝癖のついたまま揺れる私の毛先を丸い目で追いかけた。