「……私も、変なことを言ってもいい?」

「え……?」

「昨夜ね、夢の中に新太が出てきたの。今までみたことないくらい穏やかな顔で、笑って、『久しぶり』なんて軽く言うのよ」



夢に、新太が……?

冗談や嘘ではないのだろう。その表情はふざけているようには一切見えない。



「『迷惑ばっかりかけてごめん』、『でも最後にお願いをひとつ聞いてほしい』って」

「お願い……?」

「『明日、なぎさが家に来るから、ほんの少しでも会ってほしい。そして、これを渡してほしい』って」



そう言いながら新太のお母さんがそっと手をひらくと、そこにはピンク色のイルカのキーホルダーがあった。

お守り、とあの日新太がくれたもの。波にのまれて手放してしまったものだ。



「おかしな夢、って思ったけど、起きたら手のひらにこれがあって……あの子がきっと持ってきたんだって。そう思ったら届けなくちゃいけない気がした」



それを届けるために、新太がこうしてお母さんと会わせてくれたの?

それをそっと手に取り受け取ると、新太のお母さんは涙を浮かべて笑った。



「本当に勝手な子よね。最後の最後まで……本当に」



呆れるような、困ったような、悲しいようないろんな感情を見せる。



「迷惑ばっかり、なんて……私は親としてなにもしてあげられなかったのに。ごめん、も愛してる、もなにも言わせてくれなかった。抱きしめて、頭をなでることもできなかった」