「あの、新太は……」



新太は、今どこにいますか。

そう問いかけようと『新太』の名前を出した私に、台所へ向かう新太のお母さんは、ピク、と一度足を止めた。



そして、背中を向けたまま呟く。



「……亡くなったわ。事故でね、もう2週間ほど前に」



亡くなった。

事故、2週間前。

それらの言葉に、覚悟はしていても愕然としてしまう。



……本当、だった。

新太という存在がここにいたこと、トラがいたこと。

そして、新太がもうこの世にはいなかったこと。



言葉なく立ち尽くし、トラを抱きしめたまま俯く私に、新太のお母さんは台所からお茶の入った湯呑をふたつ持ってきて、私の前に差し出した。



「座って」



その言葉に促され、力なく座る。



縁側側のこの席は、私がごはんを食べるときに座っていた席だ。

けど目の前にいるのは、新太じゃない。



……新太のお母さんは、どんな気持ちだろう。

他人を助けたせいで、自分の子供が命を落とすなんて。

なんで自分の子供が、って、助かった相手を憎むかもしれない。



私が、今『新太が助けたのは私なんです』って、言ったら。強い憎しみが向けられるかもしれない。

けど、今言わなかったらきっと一生言えない。

顔も合わせられず、私は負い目を感じてこの場所に近付けない。

きっと新太という存在が、ただ悲しいだけのものになってしまうだろう。