「新太の、家だ……」
新太と過ごした日々が、夢だったのか。新太という人が、本当に存在していたのか。
それらを知るべく私がやって来たのは、新太と暮らしたこの家だった。
中に入れるかはわからないけど……。
っていうか、全く知らない人が普通に暮らしていたらどうしよう。気まずいかも。
けど、確かめずには帰れない。そう意を決して、少し古びた黒い門に手をかけてそっと開けた。
キイ、と音をたてて一歩踏み込むと、『ニャァ』と小さな声が聞こえる。
「え……?」
今の声って……、そう視線を足元へ向けると、目の前には庭の方から姿を現したらしいトラがいた。
「トラ!なんで、ここに……」
『ニャァ~』
驚き声をあげた私に、トラは『待ってたよ』とでもいうかのように近付いてくる。
そんなトラの体を持ち上げると、あたたかな体温を感じた。
「トラ次郎、どうしたのいきなり……」
すると、そんなトラに続いてひとりの女性が庭から姿を現した。
その女性は、私のお母さんと同じくらいの歳か、少し年上だろうか。すこしふっくらした小柄な人だ。
「あら?あなた……」
「あっ、えと……すみません勝手に、その……」
驚いた様子で私を見る女性に、なんて説明しようか慌てて言葉を探す。
けれど女性は私に大人しく持ち上げられるトラに視線を向けると、なにかを察したようだった。