服を着替え、財布を手にして駅に向かう。
そこからバスと電車に乗って、1時間以上はかかっただろうか。
『湘南海岸公園駅―、お下りの際は……』
電車のアナウンスに案内されるように電車を降りると、記憶に新しい潮の香りがした。
小さな駅の改札を出て、少し道に迷いながら、ぐるぐると住宅街を歩く。
どこ、だっけ。どう行ったっけ。
うろ覚えの道に歩き出そうとした足は止まり、どう進んでいいかわからなくなる。
「勢いで来たはいいけど……どうしよ」
困ったようにきょろ、と辺りを見渡すと、目に入ったのはどこか見覚えのある踏切だった。
あれ、あの踏切、たしか……。
その記憶を思い出すと同時によみがえる、新太の笑顔。
『帰ろう』
そう言って、つないだ手を引いて歩いてくれた。その景色が、まるで映像のように思い出されて、自然と足は進んでいく。
踏切を越えて、少し歩いた先の細い道に入る。
そこを抜けたら、自販機のある角を曲がって、しばらく歩いて、坂を下って空地を通り過ぎる。
そしてまた角を右に曲がれば……。
「……あった、」
波の音を聞きながら見上げると、目の前に建つのは2階建ての大きな日本家屋。
コンクリートの壁でかこまれた、少し古いその家は、1週間前とまるで変わらない。