「あら、た……?」
言葉なく、強く体を抱きしめる。
その腕には痛いくらいに力が込められて、次第に肩にじんわりと水滴がにじんだ。
この肩を濡らすのは、きっと、彼の涙。
「……よかった、なぎさにそう言ってもらえて、よかった……」
強い腕と、彼の涙、『よかった』のひと言。それは、いかに彼が私のことを思ってくれていたかを証明していた。
その思いに包まれて、思うんだ。
これほど強い力で抱きしめてくれる人、自分を思って泣いてくれる人が、この広い世界にどれだけいるだろう。
わからない、けど。
その存在と出会えた私はきっと幸せ者だって、そう心から思うよ。
伸ばした腕で、私も新太の体をぎゅっと抱きしめ返す。
硬くたくましい体は、ひどく冷たい。
冷たい波に包まれ抱きしめ合う、こんな姿を誰かに見られ、どんな視線を向けられるかわからない。
だけどそれでも、この体を離すことなんて出来ない。
このまま、ずっと一緒にいたい。愛しい、彼と。
「きっとあの日、俺となぎさが出会えたのは、偶然じゃない」
すると、耳もとでぼそ、と呟かれた言葉に私は顔を上げた。
「え……?」
「トラが、俺となぎさの願いを叶えようと、引き会わせてくれたんだ」
見上げれば、そこには涙で濡れた新太の顔がある。
トラが、私と、新太の願いを叶えようと……?
私は、生きる意味を知りたいと願っていた。
じゃあ、新太の願いは?
「新太は、なにを願ってたの……?」
思いのままに問いかけると、涙が滲むその目は悲しげに細められる。