昨日も、そうだった。

私には諦めないでというくせに、新太は自分は手遅れかのような言い方をする。



でもね、思うよ。

私に戻れる場所があるように、新太にも戻れる場所はあるんじゃないかって。



新太のお父さんお母さんだって、きっと新太と話せる日を待ってる。

完全に分かり合うことが出来なくたって、伝えることで知ることは出来る。



だから、諦めないで。



そう一心に伝えるように、私はキーホルダーをぎゅっと握りしめたまま、新太の手を握る。

けれど、応えるように新太が見せたのは悲しげな笑顔だった。



いやだ。そんな笑顔でごまかさないでよ。

冷たい海水が、足もとを芯から冷やしていく。

だけどそれでも、私はこの場に立ち新太と向かい合う。



「私……頑張るから、まだすぐには無理でも、現実と向き合って生きていくから。つまずいても、転んでも、歩いてく」



きっと私はこの先も、何度だって同じように、また迷って悩んで、立ち止まる。

けど今ここから、まず一歩を踏み出す勇気をくれたのは、その優しさなんだ。



「いつか新太みたいな、誰かを照らせる人になるからっ……」



だから、見ていてよ。

何年何十年かかるかは分からない。お互いなにをしていて、どんな暮らしをしているかなんて分からない。

だけどその時には、新太も幸せな笑顔でいてくれなきゃいやだよ。



その言葉が、予想外だったのだろうか。驚いた顔をしてみせる新太の冷えた手を、私はぎゅっと握る。

どうしてか、今にも彼が消えてしまいそうな気がして、離したくない、伝えたい、その一心で力を込めた。



すると新太は、その私の腕をぐいっと引っ張ると、両腕で私を抱きしめた。