「……また、死ねなかったんだ」



無意識にそうボソッと呟いてから、ゆっくり立ち上がり服についた砂埃を手で簡単に払った。

すると彼も同様に立ち上がり、私の背中についた汚れを軽く払ってくれる。



「でもありがとう。うちの猫、助けてくれて」

「え?」



うちの、猫?

意味を問うように彼を見れば、私より頭ひとつ分ほど大きな背をした彼のパーカーの首元からヌッと顔を出したのは、先ほどのトラ模様の猫だった。



「あ!もしかして……」

「そう、うちの猫。出かけた先に連れてきたはいいけど脱走しちゃって、丁度探し回ってたところだったんだ」



その猫を探し回っていた先で、事故の一部始終を目撃したのだろう。

納得していると、顔を出した猫は『ニャァ』と小さく鳴いた。



「そっか……よかった、助かったんだね」



元気そうなその姿に、ほっと安堵する。

喉もとをくすぐるように撫でると、嬉しそうに目を細めた猫に、つい小さな笑みがこぼれた。



「じゃあ、私行くから」



猫の無事も確認できたし、飼い主と出会えたのならもう安心だ。

そうその場を歩き出そうとした私に、その人は腕を掴んで引き留める。



「待って。この子助けてくれたお礼させてよ」

「お礼……?いいよ、なにもいらないし、してほしいこともない」



お礼だなんて言われても……せっかくだけど、そんな希望もないものだから私は首を横に振る。



「本当?なにも、望んでることはない?」



けれど、そんな私の心を見透かすかのように、その目はじっと見つめて問いかけた。