話しながら着いた『江ノ島マリンパーク』と書かれた大きな門をくぐり、新太は至って自然にチケットを買う。
あ……そういえば、お金。
チケット代くらいなら持ってる、と自分の財布の中身を思い出し、その袖を小さく引っ張る。
「新太、お金……」
けれど新太は聞こえていないのか、聞こえているけれどきこえないふりをしているのか。
気に留めることなくチケットを2枚受け取り、1枚を私に差し出した。
「はい、なぎさ。いこ」
その笑顔は『気にしないで』というかのようで、私はついそれ以上の言葉を飲み込む。
「……ありがとう」
今度、ちゃんと返そう。
そう決めて、私は新太と水族館の中を歩き出した。
薄暗い館内を歩くと、冬の平日ということもあって、思ったより人は少ない。
「空いてるねー、ラッキーだ」
笑う新太と目の前の大きな水槽を見上げると、小さく色とりどりの魚たちがすいすいと泳いでいく。
「かわいい……」
「うん、かわいい」
つい笑みをこぼして言うと、新太も笑う。その指先がちょんちょんとガラスを小突くと、魚たちは応えるようにくるりと回転した。