「……―い、おーい、大丈夫ですかー?」
呼びかける声と、ペチペチと頬を叩かれる感触に目が覚めた。
「……ん……」
「あ、よかった、生きてた」
目をひらけば、すぐ目の前には視界がいっぱいになるほど近い距離で私の顔を覗き込む男の人の姿があった。
えっ!?
この人、誰!?
驚きにすぐ目は覚めて、私はガバッと勢いよく体を起こす。
するとそこは先ほど私が歩いていた道で、目の前に横断歩道と信号があることから、ちょうど猫を庇って飛び出したあたりの場所だったことに気付いた。
私、さっき車に轢かれて……全身が痛かったはず。
あれ、だけど体のどこにもケガなんてしていないし、救急車もいない、轢いた車もいない。
一体なにがどうなって……?
「えっ……あれ!?どうして私……ていうか誰、なんで……」
混乱して、疑問すらもうまく投げかけられない。
すると目の前の、私より少し年上だろうかといったくらいの茶髪の彼は、丸い瞳を細めて少しおかしそうに笑った。
「君、さっき車にぶつかりそうになって、ひとりで転んで気絶しちゃってたんだよ。車のほうは自分が轢いたと思って逃げちゃったし……とりあえず俺の方で君を歩道に避けて、目が覚めるのを待ってた、ってわけ」
「き、気絶……」
ってことは、私は轢かれてなんていなくて。さっきのも、夢……。
ひとりで勝手に『死ぬのかな』なんて思っていたことがなんだかちょっとマヌケで、脱力したように「はぁ……」と息を吐く。
けれど、それと同時に込み上げるのは、ほんの少しの絶望感。