「っ……危ない!!」
自分のものとは思えないくらい大きな声を張り上げ、目の前の猫を抱きしめた。
その瞬間、ライトの眩しさとけたたましいクラクションの音で、視覚と聴覚は埋め尽くされた。
強い明かりが、目をくらませる。
それでも、その時も、猫を守らなければという謎の使命感に駆られ、私は腕から猫を離すことはなかった。
痛みを感じる間もなく体が浮いて、視界がぐるぐると回る。
そして意識を手放したのち、次に感じたのは、固く冷たいコンクリートの感触だった。
『聞こえますか!大丈夫ですかっ……』
救急車のサイレンと呼びかける声が、聞こえる。
はい、と返事をしたいのに声は出なくて、体も動かなくて、目の前も真っ暗でなにも見えない。
だんだんと、自分の体が自分のものじゃなくなっていくのを感じる。
……私、死ぬのかな。
死ぬんだろうな。
猫庇って、車に轢かれるなんて、こんな終わり方想像してなかった。
けど、そっか……やっと終わる。
今度こそ私は、ラクになれる。
嬉しいと思うはずなのに、頬に涙が伝った気がした。
『お願い、彼女を助けて』
遠くなる意識の中、誰かの声がかすかに聞こえた。