明菜グループからはじき出され自然と一人で行動するようになったエリサは、自分と入れ替わりにグループに入ったわたしを時折親の仇かなんかみたいに睨んでくる。毎日それぐらいしかすることがないみたい。

ちょっと前まであれだけ女王様気取りでいばってたくせに今は一日中誰からも声をかけてもらえないんだから、自業自得とはい可哀想なのだ。無視という形のいじめはわたしみたいにもともと一人ぼっちの人間にとってはなんでもないことだけど、周りから注目されることだけが生きがいみたいなエリサにしたら何よりしんどいいじめ方だろう。

エリサのことは可哀想だと思う。自分をいじめていた人間のことを可哀想だなんて変かもしれない、でもいじめられているが故にエリサのことをずっと観察していたわたしは、今のエリサが本当に可哀想な人に見える。

 最初のうちは女王様だったのにね。一学期の頃、休み時間のたんびに明菜や桃子に囲まれてすごーいその巻き髪どうやったのーだのそのグロス超いい色―どこのぉー貸してー、だのとアイドルみたくもてはやされご満悦になってたエリサを思い出し、頭の後ろの刺し貫くような視線に向かって呟いた。

 エリサがわたしをいじめ出したのは、女王様の地位をキープするためだ。自分は弱い者をいたぶる権利を持つ強い者であることを周囲にアピールし、いじめの中心にいることで明菜たちの信頼と羨望を得ようとする。明菜たちも増岡たちも割と早くいじめに飽きてしまったのは、エリサにとってもわたしにとっても想定外だった。

やっぱり、小学生までとは違うんだろう。中学二年生にもなれば家と学校の往復以外にも少しずつ世界が広がっていく、制服の着崩しや化粧、放課後の寄り道、いっぱしに彼氏彼女を作る人さえいる。桃子みたく、エッチなんて下品極まりないことをしている人も。特に明菜たちみたいに派手な子は世界の広がるスピードが速い。いじめ以外にも楽しいことは世の中たくさんあるってわけだ。

 そこで焦ってもっとひどいいじめで明菜たちの関心を得ようとしたエリサは、結果的にいじめに狂った女とみなされドン引かれた。いや、みなされ、じゃなくてほんとに狂ってるのか。放課後のトイレに呼び出され殴られ蹴られた日。鼻血は出たし口の中も切れたしお腹を蹴られたせいか後でげーげー吐いた。ひどい顔で家に帰ったらどうしたのとお母さんに眉をひそめられ、階段で転んだってベタな言い訳をした。