「いいなー明菜、モテモテだね」

「何よ和紗、羨ましいのー? 先輩がいるくせに、浮気はいかんぞ浮気は」

「違うって。桃子と一緒にしないで」

「えー何、桃子浮気者なのかよ?」

 黒川が下品に口元をにやつかせながら言って、桃子が違うしっとその肩を軽く小突いた。当の明菜は『四組の田原』が誰なのか本気でわからないらしく増岡が一生懸命説明してて、その横で和紗が一学期の頃桃子が二股かけてたって話を暴露しだし、マジかよーとはやし立てる黒川たちの前で桃子は違う違うと言いつつ笑ってる。鞠子は増岡から田原についての説明を求められ、面倒くさそうにしつつもなかなか一生懸命田原の特徴を挙げていた。

鞠子の隣になんとか自分のポジションを確保しているわたしは、頷くことも会話に入っていくこともできず棒立ち状態。こういう時何かしゃべったほうが仲良しグループらしく見えるんだろうけれど、ひとと接したことが十四年間の人生の中で極端に少ないわたしは、大勢が作る輪の中で会話に入っていく術を知らない。みんなも無理にわたしをおしゃべりに引き込もうとはせず、マイペースに楽しくやっている。

グループに引きずり込まれてはみたものの持て余されている存在であることを改めて自覚する。

 小学校の頃からずっと一人で行動してて、一人ぼっちが寂しいとか惨めだとか思うことは忘れた。でも、誰かといる時の孤独に慣れるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 頭の後ろに刺すような視線を感じて背中がぞわりと粟立った。うすうす正体に気付きながら振り向くと、自分の席にうずくまって石膏像みたいにぴくりともせず、こっちを睨んでいるエリサが見える。その顔はわたしをトイレで殴ったあの日のままで、鬼の形相としか表現できない表情はむき出しの敵意に満ちていた。

 慌てて向き直る。どうしたのー、と明菜が何かのついでみたいに声をかけてきて、いきなりしゃべりかけられたことにちょっとびっくりしつつ小さく首を振った。明菜はそれ以上わたしへの興味を持続させず自分たちの話に戻っていく。

 まったくもう、ほぼホラーだ。あんな顔で睨みつけてきてわたしが何をしたって言うんだろう。エリサのこの視線にも、しばらく慣れそうにない。