あのとき橋倉くんに会ったのは、単なる偶然。



私が偶然裏庭で絵を描いていて、橋倉くんも偶然裏庭を散歩していて。


そんなことが重ならない限り、私と彼は相容れない関係のはずだ。

そう思っていた。



廊下に飾られている、私の絵の前に立つ人に気づくまでは。




「………………」



橋倉颯。

彼はひとり、そこに立って、私の絵を見上げていた。



思わず立ち止まってしまったのは、単に絵を見られていることに気づいたからじゃない。


一年の頃、文化祭で描いた大きな絵。地元の町並みを描いたそれは、顧問の先生が去年からそこに飾ってくれていた。


色んな生徒が通る廊下に堂々と飾っているのだから、見られるのなんか当然だ。


今年に入ってからも、一年生が数人で立ち止まって見てくれているのを、この廊下で見かけた。

『すごいね』、『上手いね』って、言ってくれてるの、聞いた。嬉しかった。


でも、それだけだった。


…………だけど。