颯は「じゃあまた放課後」と言って、去り際に私の頭をぽんと撫でた。
…………『また』。
颯はいつも、別れ際にこの言葉を使う。
私はそれを聞くと、ああ明日も会えるのだと思い、安心できた。
だけど今はなんだか、その言葉が妙に切なく私の胸に響いた。
*
放課後、もんもんとした気分のまま、美術室へ行った。
先に来ていた先輩は私に気づくと、「やあ」と手をあげた。
「なんだか暗い顔してるね」
「………そう、ですか?」
「うん。何かあった?」
「……………」
何かあった、というより、何かが起こっていた、だ。
私の知らないところで。
まさか颯とのことを言えるはずもなく、私は黙った。
先輩は目を伏せた私を見て、ふ、と微笑んだ。
それはいつも私を安心させてくれていた、あの笑顔で。
「何があったのかはわからないけど………中野さんならきっと大丈夫だろうって、僕は思ってるよ」
ぱっと顔をあげる。先輩の眼鏡の奥の瞳は、やさしく細められていた。