それから私は、何度も彼に会いに病院へ走って、色んな話をした。


私は小さい頃から絵を描くのが好きで、ある日赤いスケッチブックを手に病院へ向かった。



『颯。あのね、この街の海がね、すごく綺麗なんだよ』



当時は風景なんてちっとも描いたことがなくて、あの場所のいいところなんて全然伝わらなかったと思う。


だから下手な絵を補うように一生懸命話しながら描いていると、颯はうんうんと頷きながら聞いてくれた。


それから、いくつも絵を描いた。


この頃から私には大好きな景色がたくさんあって、外の世界をあまり知らないという颯に、それらを伝えたくてたまらなかった。



『颯の身体がよくなって、一緒に行けたらいいね。わたしね、たくさんいいところ知ってるよ。いつか一緒にいこうね、颯』



一緒に行きたいと思ってほしい。いつか病院を出ることを諦めないでほしい。


颯は、将来自分の身体が良くなって病院を出ることを、どこかで諦めている節があった。


私はそれが悔しくて、もどかしくてたまらなかった。