「………颯には、わからないよ。私の気持ちなんか」



涙がこぼれるのは、意地でも我慢した。


そうしたら、声が震えた。喉も痛かった。


颯の顔が見れなくて、うつむいた。


本当に私は、どうしようもないやつだ。弱くて情けなくて、面倒くさいやつだ。


こんなにも明るい太陽を前にすると、眩しくて眩しくて、目も開けていられなくなる。



「誰からも好かれる颯には、わからない」



私の声は静まり返った室内に、じわりと響いた。


わからない。

颯には、わからない。


他人に愛される才能をもった彼には、私の気持ちなんかわからない。


いつだって、羨ましかった。


無邪気で、純粋で、人を笑顔にする天才で。


それでいて、そのことにも気づいていない。自分が特別だって気づかずに振る舞うものだから、腹が立った。


無意識に自分の大きな歯車を動かして、周りも動かして。私みたいな小さな歯車は、周りの動きに振り回されてばかりだ。


颯は『自分の大事なものを中心にして生きていきたい』って言うけど、そんなのわがままだ。颯は他人にとっての大事なものでもあるのに。


私だって、自分がいるところが中心だって思いたい。私が大事にしたいものだけを大事にして、生きていきたい。


だけどそれすら難しいんだから、もうどうしようないじゃないか。