彼の身体の一部が透けて見えたこと。

彼の存在を、私はつい最近まで知らなかったこと。

彼の下の名前を海で初めて呼んだとき、何故だか泣きたくなったこと。



自分の感情でも、颯に関してはわからないことが多い。


理由を知りたい。どこかにある気はしている。


だけど知りたくない気持ちもある。


知ったらたぶん私は、彼がもうすぐどこかへ行ってしまうという事実から、逃げたくなってしまうだろう。



目を開けて、視線だけ横に動かすと、颯は呆けた顔をして私を見ていた。



「……どうしたの。気を悪くさせたんなら、謝るけど」

「……いや……いや。うん、なんでもないんだ。………ありがとう」



颯にしては珍しく、動揺した様子で首を横に振った。


どうしてか、思い悩んだ表情をする颯に戸惑う。そして次に彼は笑うこともせず、私を強い瞳でまっすぐに見つめた。



「………理央。あのさ……」

「見つめあってるー!」

「ヒュー!」



ずっと黙っていた子供たちが一斉に騒ぎはじめて、颯の声を遮った。