欠伸をしながら言うと、みどりはけらけらと笑う。

手首は掴まれたまま。冷たいコンクリートの階段に、二人分の足音がばらばらに響いた。


「いつもと違う枕やったら寝られやんってこと?」

「悪いかよ」

「ふはっ、柊は神経質やなー!」

「……達郎にも全く同じこと言われた」

「え、たっくんにも?」


少しふてくされて、そっぽを向く。

遠くで、きっと新聞配達だろう、バイクの音が聞こえた。


「たっくん、かー……」


何か言ってくると思って身構えていたのに、みどりはそれっきり黙ってしまった。

笑い声さえしない。足取りもさっきまでと比べて、明らかに重い。


「みどり」

「んー?」

「……みどり」

「うん」


キャンプファイヤーのときみたいに、ぼんやりとしている。

……達郎に関することで、何かあったんだろうか。


「お、着いた」


ぽつりと聞こえたみどりの声で、顔を上げた。

いつの間にか一番上まで来ていたようで、俺の手首を掴んでいた手は、ぱっと離れた。


狭い踊り場。

ぼーっとしたまま突っ立つみどりの隣に立ってみる。





「わ……」


思わず、感嘆の声が出た。


山と山の隙間から、赤々と燃えるような太陽が見える。

ゆらりゆらり、眩しく輝く太陽は、静かに空へと昇っていく。


みどりが見たいと言った日の出は、これのことか。