何もそんなに嬉しそうに笑わなくても、と思うほどの笑顔で。
それを向けられた俺は、何となくもどかしかった。
「そんなら、はよ行こー!」
きゅっと上靴が廊下に擦れた音がして、駆け出したみどり。
寝癖はぴょこぴょこ、あちこちに跳ねた。
「……無理……」
「えええ……! 頑張ろうよ柊さんっ!」
「なんだよこの階段……、長すぎんだろ……」
「ほら、あとちょっと!」
振り向いて、みどりはそう言うけど、もうどうでもいい。
溜め息を吐いて座り込もうとすると、手首を掴まれてしまった。
「立って立って!」
「疲れたし眠いし……」
「行こう!」
掴まれた手首がぐいっと引っ張られ、渋々立ち上がる。
じわりと髪の生え際に汗をかいていた。まだそんなに暑くない朝だから良かったようなものだ。
引きずられるようにして上るのは、校舎の側面にある非常階段。
みどりは屋上で日の出を見たかったらしいけど、屋上は開放されていない。
それならこの非常階段の一番上で見る、と言ったみどりに連れられて、ここまで来ていた。
「っていうか、眠いん? じゃあ教室戻ったら良かったのに」
「戻っても寝られないんだっつの……」
「はい?」
意味が分からないとでも言いたげに、みどりは首を傾げる。
「ワタルのいびきうるさいし、寝相も悪すぎるし」
「そ、それはお気の毒やね……」
「あと、枕が固すぎて」