「ぎょぬ!」
「は?」
……どういうことだ。
トイレから出てきた瞬間、聞こえた奇声。
そっちへ視線を向ければ。
「……みどり、何してんの」
女子トイレから出てきたみどりがいた。
「何してんのって、トイレしかないでしょうよ、この状況は」
「あー……、そう」
「はー、びっくりしたー、幽霊かと思ったやんか」
それはこっちの台詞だ。
あちこちに寝癖が付いていて、いつも以上にもしゃもしゃの頭をしているみどりは、遠目で見ると何か分からない。一瞬、本当に幽霊かと思った。
そんな俺を気にも留めず、みどりは手をぱっぱと振ったあと、履いているハーフパンツで拭いた。
「……みどり」
「お?」
「それ、女子としてどうなわけ」
「なにがー?」
「タオルとかハンカチとか……」
由香や相澤なら持っていそうだ、と思いながら言ってみたけど、これでみどりが持っていたら逆に驚くかもしれない。
そう思い直して、口を噤んだ。
廊下は相変わらず静かで、俺とみどり以外の人の姿は見えない。
「そういえば、今何時?」
「多分、5時前くらいやと思うー」
「ふーん……」
「……教室戻らんの?」
「みどりこそ」
戻ろうとする素振りを見せないみどりに、そう問い返す。