「柊、そこ持って」
名指しで言われたら逃げられない。
やむを得ず、達郎に指差されたシーツの端を持った。
「まったくもー、ワタルの声が先生のところまで聞こえてくるって、どういうことよ」
「嘘やろ!?」
「ほんとほんと。ワタルの声って響くからなー」
先生のところまで聞こえていたなら、女子のところまで聞こえていてもおかしくない。
ワタルは顔面蒼白、さっきまで真っ赤だったのが嘘みたいだ。
「内容は!? 聞こえとった!?」
「んー、別に? なんかキンキン言っとるなーって感じ」
考えるように言った担任に、ほっと息を吐くワタル。
焦ったり安心したり、忙しいやつだ。
「何よ、そんな聞かれたらまずい話でもしとったん?」
「しとらん、しとらん!」
「ふーん、あっそ。とりあえずあんたら、早く布団入りなー」
「えー……」
「えー、じゃないやろ。ほら、さっさと入る!」
そう言って、全員が布団に入ったのを確認すると、担任は電気を消して、立ち去っていった。
「……内容は聞こえとらんかったんやな、つまらんー」
足音が聞こえなくなった途端、小声で会話が再開された。
ワタルはさっきと打って変わって、余裕そうに鼻で笑う。
「まあ別に、きょんなんか関係ないし、聞かれとっても大丈夫やったけどなー」
「いやいや、絶対好きやろ」
「違うけどー、まあ何とでも言ったらいいよ」
「うわ、つまらん」
「俺は大人やからなー」
「どこが」
小声だけど、部屋にいる全員が静かになったからか、はっきりと会話は聞こえる。