「第八ラウンドいくぞー! 次こそはたっくんと柊も入るやろ?」
「あー……、いや、俺はやめとくわ」
「えー! たっくんが大人ぶっとるー!」
「ワタル、もう少し声のボリュームとトーン下げて……」
耳を塞ぐ達郎なんてお構いなしに、ワタルはキンキンと高い声で話し続ける。
クラスで一番騒がしいワタルの声変わりはまだらしい。
ワタルの声が低くなったらどうなるのか、想像もつかない。
「あーもー、たっくんなんか嫌いやしな!」
「はいはい」
「柊は? 柊はするやろ?」
「遠慮しとく」
「なんで!」
叫んだワタルの声が頭に響く。周りのやつらはそれをけらけらと笑い、傍観するのみだ。
「なんで枕投げしやんの? 醍醐味やんか!」
「……」
「枕投げしやんお泊り教室なんか、お泊り教室じゃないやろ!」
「……いや、やめとく」
「まじか!」
打ちのめされたように、頭を抱えたワタル。感情表現が大きいのは見ていて面白いけど、高い声で叫ぶものだから、やっぱりキンキンとうるさい。
「ワタル、柊に二回も振られたなー」
「しつこい男は嫌われんぞー」
「そのうち、きょんちゃんにも嫌われんぞー」
「は!?」
どさり。
持っていた蕎麦殻枕を落として、ワタルの頬は赤に染まっていく。
ものすごく分かりやすい反応だな。