「不思議なんだよね」


ぽつりと呟いた由香に、耳を傾ける。


「席が隣になれて、班長と副班長になれて」

「うん」

「家が近いから、一緒に帰れて、たまに遊べて」

「うん」

「二人でみどの保護者気取りしてみたりして」

「え、ちょ」

「さっきの人参だって、そう。ハートに切ったことに気付いてくれて」


ああ、じゃあ、もしかして。

ふと頭に浮かんだ推測を口にした。


「……あの人参、わざとたっくんの皿に入れたん?」

「ふふ、……うん。笑っちゃうでしょ」


ふわり、ふわり。

由香は笑顔で話すから、あたしは無性に恥ずかしくなる。こんな話を由香とするのは、初めてだからかな。



「……そんな、些細で小さなことなんだけどさ」


炎の周りを囲むみんなと、あたしたち。

静かなところで、二人ぼっちだ。





「それだけで嬉しくて、好きだなって思うんよね」




由香はあたしを置いて、飛んでいってしまう。


追いかけるための翼さえ持っていないあたしは、ただぼんやりとその姿を見送ることしか出来なくて。




「告白、しやんの?」

「そんなに簡単に出来たら、苦労しやんよ」

「そうなん?」

「今のままがいいの。たっくんとみどと柊と、みんなで楽しく遊べるだけでいいから」

「……そっか」




せめて、今だけは。



飛んでいくその姿を、見失わないでいたかった。