「……たっくん、これはおかゆ?」
「つーか、……餅?」
「いやー、そんなつもりは無かったんやけど」
由香と柊からの鋭い視線を受け、たっくんはぽりぽりと首の後ろを掻いた。
何がそんなに悪いんだろう、とあたしもその物体を口に運ぶ。
「こ、れは……!」
「なに、みどり」
「“DEATH RICE”……!」
「……そんな感じの漫画あったよな」
溜め息を吐いた柊に、たっくんは白い歯を見せて、へらりと笑った。あたしはもう一度、その物体を口に運ぶ。
うん、やっぱり、何かがおかしい。
由香が作ってくれたカレーは美味しい。問題は、たっくんが担当した飯盒炊爨だ。
「水加減間違えたなー」
「いや、もうこれ、間違えたってレベルじゃねーだろ……」
「多すぎやね」
「ですらいす! ですらいす!」
「みどりはちょっと黙っとけ」
「何故!」
カレーの下に埋もれている、ご飯になるはずだった物体はふやふやで、もはや原形を留めていない。せっかくのカレーを掻き消している。
「二班のご飯、やっちゃった感じだね」
後ろからそんな声がして振り向けば。
「あ、スミレちゃんっ!」
スミレちゃんは数本のスプーンを手に持って、あたしのカレー皿を覗いていた。今日の髪型はいつものハーフアップじゃなくて、二つに緩く結んでいる。
「私のは上手く出来たよー」
「スミレちゃんが飯盒炊爨の担当したん?」
「うん。他の子たちに任せたら、どんなのになるのか不安だったからね」
「そっかー」
「じゃあ、完食頑張って」
言いたいことだけ言って、スミレちゃんは去っていく。嵐みたいだ。