「みど、柊、カレー出来たよー」
不意に聞こえた、由香の声。
顔を上げると、エプロンを外した由香がこっちに向かってきていた。
「ん、ありがと」
そう言って、柊は立ち上がり、たっくんが手を振っているほうへと歩き出す。
蚊取り線香は、まだ半分以上を残して、じりじりと燃えていた。
火は消さなくてもいいのかな、大丈夫かな。カレー食べてる間に蚊が来るのは嫌だけど、火事になるのはもっと嫌だし。
少し考えて、結局火は消した。
「ほら、みども行くよ?」
「あ、うんっ」
慌てて立ち上がり、由香の隣に並ぶ。
「みどり、おせーよ」
眉間に皺を寄せて、心底迷惑そうな顔で。
少し前を歩く柊が、振り向きながらそう言った。
「今行くってば」
むかつく。
むかつく、けど。
――“俺は多分、後ろ姿だけで、みどりのことも見付けられると思うけど”。
「……みど」
「んー?」
「なんか、嬉しそうやね」
ちょっと。ほんのちょっとだけど。
さっきの柊の言葉が、嬉しかったのはどうしてだろう。