「あー、そうそう」
先生は思い出したようにそう言って、手を二回叩き、教室のざわめきを一旦遮る。
「この前にお泊り教室の係決めしたけど、そのとき柊はまだおらんかったやろ?」
「あー、はい」
急に出された自分の名前に多少驚きつつも、係なんて決めたのか、と冷静に頭の端で思う。
隣でみどりは、どういった経緯でそうなったのかは知らないが、机の上にシャーペンの芯をばらまいていた。
「でー、勝手に決めて悪いかもしれんけど、柊は蚊取り線香係してもらうわ」
「……蚊取り線香係?」
なんだそれ、と首を傾げる。
みどりは芯をケースに戻し入れている。
一本一本入れていたら、かなり時間がかかるんじゃないかと思ったけど、そんなことは置いておく。
「まー、蚊取り線香が燃え尽きたら新しいの準備する係やな」
「え」
需要あるのか、その係。
とりあえず頷くと、先生は満足げに笑って。
「じゃあそういうことでよろしくー。何か分からんことあったら、みどりに聞いてな」
「……、みどりに?」
「あれ、言わんかったっけ?」
これは、とてつもなく嫌な予感がする。
「蚊取り線香係、みどと一緒やからね。あんたら仲いいから心強いやろ?」
ぴちょん。
干してある学ランから水滴が落ちた。