「合羽暑いー、むしむしするー、かゆいー」

「知るか」

「んごっ」


ヘルメットをしっかり被り、尚且つ、その上から雨合羽のフードを被っているみどり。

そのフードを少し引っ張って脱がすと、みどりはまた奇声を上げた。


「柊さんひどい……! もっかい被せて!」

「うっせ、さっさと漕げ」

「うえー……」

「遅刻するだろが」


促すと、みどりは渋々といった様子で立ち漕ぎし始めた。

学ランはとっくに湿って、ずっしりと重い。

もう脱いでしまいたい。早く学校に着かないだろうか。


そう思いながらみどりの背中を見つめていると、向かい側からトラックが来た。


「わ、トラック来よった……!」

「え」


何を慌てているのだろう、と思ったのも束の間。

すれ違う瞬間、バシャッと音を立てて水溜まりに突入したトラック。



「うっ、わ!」


その水は勢いよく跳ねて、俺たちにかかった。

ズボンはもう絞れるくらい、水分を含んだと思う。


「あちゃー、かけられたー……」

「最悪だ……」


ゲコゲコと何処かでカエルの鳴き声がした。近くの田んぼの水は、土色に濁っている。

橋の上で、ふと川に目を落とせば、いつもより水かさが増していた。


「学校着いたら、靴下履き替えよーっと」



雨は、絶え間無く降り注いでいた。