今日は朝から、雨が降っていた。


「しゅー! おっはよー!」

「……なんでそんなにテンション高いわけ」


溜め息混じりに呟くと、ベージュの雨合羽を着て自転車にまたがっているみどりは、むっと眉間に皺を寄せる。


「幸せ逃げてくよーっだ」

「知るか」


俺が差している黒い傘には、バラバラと雨が落ちてくる。湿気を含んだ空気はじっとりとしていて、草の匂いと混じっていた。

雨で濡れていた荷台をタオルで拭いて、傘を差したまま乗ると、みどりが非難の声をあげる。


「傘差したまま乗んの!?」

「はい出発」

「いやいや、危ないやろ……!」

「大丈夫だっつの」

「えー……」


早く出発するように再度急かすと、渋々みどりは自転車を漕ぎ出す。


カサコソ、カサコソ。みどりが自転車を漕ぐたび、雨合羽がこすれて音を立てる。


「みどり、もっと慎重に漕げよ」

「はー? 嫌なら降りたらどうですかー?」

「雨が当たるんだけど」

「知りませーん」


傘を気にしながら乗るというのは、なかなか難しいもので。少し自転車がふらついたら、それだけで雨が降りかかってくる。

それに加えて、みどりの雨合羽に付いた水滴がみどりが動くたびに飛んできて。避けようにも避けれない。


そうこうしているうちに、自転車は中村さんの山の中に入っていく。

きた、と身構えた途端、ガタガタと自転車は揺れ出した。


「だっから、もっと丁寧に!」

「もー、柊はクレーマーやねー」

「雑すぎる!」

「やっふーう!」

「聞け!」