「すみませんでした!」


数時間後、あたしはトシちゃんちの客間で、土下座していた。

トシちゃんはそんなあたしを見て、楽しそうに笑う。笑ってる場合じゃないってば。

睨んでみると、トシちゃんは知らん顔で台所へと逃げていった。


あたしは道のそばにあった田んぼに投げ出されたらしい。言われてみれば、ぬちょっという泥の感覚がしたような、しなかったような。

ともかく、泥まみれの制服はお母さんの手に渡り、あたしは畳んであった洗濯物の中から適当に引っ張り出したTシャツと、学校指定の青いハーフパンツを着ている。

田んぼに落ちたのが良かったらしく、とくに痛いところはない。


問題は、目の前に突っ立っている学ランさんだ。

この辺では見ない顔。髪の毛は光が当たると栗色に見える。

身長はあたしよりちょっと大きいくらいだろうか。もうそろそろ暑い時期なのに、ちゃんと学ランの上着まで着ている。

そんな見ず知らずの男の子に、あたしは再び頭を下げた。


「本当にすみません、今度から前見て運転します……」

「……」

「ノーヘル運転もなるべくしません……」


言ってから、激しく後悔する。あたしの楽しみが減ってしまった、と。


「や、やっぱ今の無しで……」

「……」

「……えーっと」

「……」

「ちょっと、トシちゃあああん!」