野口ペアは、苗が入っていた黒のポリポットを、手慣れたように外す。さすが農家の子。
「……達郎」
「これはなー、茎の根元を右手の人差し指と中指の間に挟んで、そのままひっくり返して……うん、そうそう」
名前を呼ばれただけで教えてあげるたっくん。柊が外したのを見て、あたしもそろっと外す。
「等間隔に植えていってー。大体この辺かなってところ、軽く掘ったから」
雅子先生はてきぱきと動きながら、花壇を指差した。
「あたしはこことここの穴にするー」
「じゃあ私は、みどの隣に植えるわ」
そう言って、隣にしゃがみ込んだ由香を見ると、目が合った。
無性に照れ臭くて、でも嬉しくて、へらっと笑うと由香は微笑んだ。
「微笑み合うのはいいから、ちゃっちゃと植えてやー」
そんな雅子先生の声に頷き、浅めの穴に苗を埋めて、その周りの土を少し被せる。
他の苗も同様に植えて、ぽんぽんと叩くと、固い土の感触が手の平に伝わった。
「柊もたっくんも植えたー?」
「うん、植えたで」
たっくんが頷くと、雅子先生は待ってましたと言わんばかりにジョウロを持ち上げる。
等間隔に並んだ苗に、ひとつひとつ、雅子先生は丁寧に水をやる。
「支柱はまだいらんのですか?」
「もう少し成長してからでいいやろー」
由香の質問に答えて、ジョウロを下ろす。
「そんなわけで明日から、昼休みでも放課後でもいいから、ちゃんと水やりしてな」
よろしく、と言ってから、雅子先生は花壇のほうにふと視線を向けて、満足げに笑った。
柊がぽそっと、仕事増えた、って呟いていたけど、聞かなかったことにしよう、うん。
「よし、じゃあ解散ー」
そう言った雅子先生が、からっぽのジョウロを振り回すと、ぱらぱらと水滴が飛んできた。
「あうっ」
もろに顔面ヒットした水滴。
ちょっとぬるい。
「あっはは、ごめんごめん! 気を付けて帰りなやー」
高らかに笑って去っていく後ろ姿を突っ立って眺めていたら、帰るよ、と由香に腕を引かれた。