少し離れたところにある水道まで小走りして、その周辺に散乱していたジョウロの中で一番大きなものを選び、蛇口を捻った。
勢いよく飛び出してきた水は、ジャーッと底にぶつかる。
「おー……!」
ジョウロの中で反響して、大きな音に聞こえていたのも、水が溜まっていくのにつれて、だんだん小さくなる。
溢れるギリギリのところで蛇口をキュッと捻ると、数滴ぽたぽたと落ちたあと、水は止まった。
「うっし」
右手でジョウロを持ち上げた。
が、しかし。
「おっも……!」
張り切って入れすぎたのか、ジョウロなみなみいっぱいの水は、思うように動いてくれず。
もう一度気合いを入れ直して、両手で持ってみると上がったジョウロ。
「よっし、今だ!」
腰は曲がったまま、ジョウロの底は足首あたりの高さのまま、両腕は伸びきったまま。
右、左、右、左、と足を細やかに動かす。
そのたびにジョウロの水は、ぴちゃぴちゃと音を立てて跳ねた。
「持って来たよーっ!」
「ありがと、……ってどうしたんよ」
「お?」
「水遊びでもしたん?」
あたしからジョウロを受け取って、雅子先生は言う。
自分の足元に視線を落とすと、なるほど、靴下はびしょびしょだ。
「みどの通ったところ、めっちゃ分かるやん」
呆れたような由香の声に、今通ってきたところを振り返ると、コンクリートの上に一本の筋が出来ていた。
ジョウロの水が零れて、線を描いたらしい。
「おー……!」
「感動するところじゃないだろ」
柊は溜め息混じりで呟く。
その言葉に、むう、と眉間に皺を寄せていると。
「よし、苗植えるでー」
雅子先生はそう言って、あたしたちに二つずつ苗を持たせた。