「柊、深呼吸!」
「……今?」
「いーまーっ」
ほら早く、と急かすみどりに従うのは気に食わないけど。
夏の風、が知りたくて。
大きく息を吸ってみた。
むせ返るような緑の匂い。
田んぼの泥と土。
湿っぽさ。
包み込むような太陽の温もり。
虫の鳴き声。
「……夏の風、だ」
呟きは空気に溶けて、消えていく。
下り坂はどこまでも続いているような気がして、このまま落ちていってもいいと思った。
伸びた影が眩しい。
ごうごうと風を切る音がする中、きっと聞こえていないだろうと思ったのに。
「そやろ?」
満足げなみどりの声が、風に乗って聞こえた。