二人分のヘルメットを自転車のハンドルに引っ掛けて、みどりは笑顔で俺を見る。
丸衿ブラウスの第一ボタンは開いていた。
「よっし、行きますか」
「……だから、なにが」
「ノーヘルは見つかったら怒られるから、はよ行こ」
そう言って、俺に再び荷台に乗るように促す。
渋っていると、みどりが急かしてきたから、流されるままに乗った。
「柊、深呼吸してみ」
「……は?」
「夏の風、きっと分かるよ」
聞き返す暇もなく、みどりは勢いよくアスファルトを蹴る。
自転車はゆっくりと坂を下り始めた。
少しだけ助走を付けると、みどりはペダルから両足を離す。
「しゅーう!」
「なに」
「ちゃんと掴まっといてよー!」
ぐんぐんとスピードアップする自転車。
風を切る音。
坂を落ちていくような、そんな感覚。
「やっふー!」
けらけらと笑うみどりの背中を見つめながら、さっきの言葉の意味を考える。
――夏の風? 風に種類なんて、あるのか。
カラカラとタイヤは悲鳴を上げながら、下り坂を転がる。
移り行く景色は、黄緑、緑、深緑、たまに茶色。
そしてそれらは、だんだんと線になっていく。
ぼんやりとその色を見ていると、不意にみどりが叫んだ。