「中村のおばあちゃん好きやわー」
「それはいいから、もっと丁寧に運転しろ」
「いやー、気持ちいいねー、ここは」
聞く耳を持たない運転手は、そのままぐいぐいと漕ぎ続け、やっとのことで山を抜けた。
「……いつか絶対泣かす」
「わー、柊さん物騒ー」
アスファルトの上を、ふらふらと進む自転車。
沈んでいこうとしている太陽は、遠くの山の上で綺麗なオレンジ色をしていた。
「……夏の風やなー」
ぽつりと呟いたみどり。
「夏の風?」
「うん」
いまいち理解出来ずに黙ったままでいると、自転車は大きく右に曲がった。
バランスを取り遅れた俺は、落ちそうになりながらも何とか持ちこたえる。
が、その努力は無駄だったらしい。キュッ、と音を立てて再び自転車は止まった。
「柊、降りて降りて」
急かされて、荷台から降りる。地面に足を付けることが出来て、ひとまず安心。
伸びをすると、腹筋と尻がとてつもなく痛かった。
「……で、何しろと?」
「しっ! 見つかるやろ」
「……は?」
自転車を止めて、辺りをきょろきょろと見回しながらヘルメットを外しているみどり。その行動の意味が分からず、顔を上げると、見覚えのあるカカシがいた。
今いる場所を改めて見ると、長い長い坂の上ようで。
曲がりくねった坂の下、俊彦の家があった。どうやらここは、もう家の近くらしい。
「ほら、柊も今のうち!」
「……なにが」
「ヘルメット!」
よく分からないまま、とりあえず言われた通りにヘルメットを外す。
するとみどりの手が俺からそれを奪い取った。