木々の間から零れる光は、ヘルメットの下から少しだけ見えるみどりの髪を、サラサラと輝かせる。

曲がりくねった道、右へ左へ体重移動。

バランスを取るものの、何度か振り落とされそうになる。


「あ、中村のおばあちゃん!」


急に止まった自転車。反動で、思わずみどりの背中にぶつかる。


「もー、ぶつからんといてよー」

「急ブレーキかけんなよ」


みどりの背中から離れつつ言い合っていると、くすくすと笑う声がした。


「みどちゃん、おかえり」

「こんにちはーっ!」


声のほうを見ると、手ぬぐいで頬被りした小さなおばあさんがいた。見た感じ、七十代だろうか。

そういえばこの山は、中村さんの山だとか言っていたような。

ぼんやりと思いながら見ていると、おもむろに目が合った。


「あらま、みどちゃんのお友達?」


にっこり、微笑みかけられたけど、何と答えていいか分からず、会釈を返す。


「転校生なんよー、柊っていうん」

「へえ、そうなんね」


それだけで満足したようで、おばあさんは頻りに頷いて笑っていた。


「中村のおばあちゃんはお散歩してたん?」

「今日はちょっとヨシエさんとお茶してたんよ」

「あ、ヨシエさんといえば足の調子悪いって聞いたんやけど」


二人はそんな世間話に花を咲かせる。

ヨシエさんを知らない俺は、ヨシエさんはきっとその辺のおばあさんなんだろう、と想像しながらただその様子を眺めていた。


「じゃあまたね!」

「気い付けてなー」


キリがついたのか、みどりはおばあさんに手を振って、また自転車を漕ぎ出す。