きつすぎる顎紐を緩めながら、みどりに非難の目を向けるが、気にしないとでもいうように自転車は出発する。

行きと同じように荷台の付け根あたりを掴み、みどりの後ろ姿を眺めた。

細い髪は柔らかそうに、自転車の揺れに合わせて靡く。


「みどり」

「んー?」

「みどりは、家の手伝いしないわけ?」

「あー……、うちは脱サラ農家やから、そんなに広い土地持ってないんよー」

「脱サラ農家?」


みどりには見えていないのは承知だけど、首を傾げる。


「お父さんもお母さんも、もともとこの町の人じゃなくてさー」

「へえ」

「山が好きで田舎暮らしに憧れて、家買うときにこの町に来たんやって」

「……ふーん」


そういえば、畑ひとつ挟んで隣のみどりの家は、この町には珍しく洋風だったような。


「収穫とかの忙しいときは手伝うけど、手入れが大変な感じでもないからさー」

「……」


自転車は山の中へと入っていく。林道のようなここは、行きに落とされそうになったところ。

掴まっている手に力を入れたと同時、みどりは立ち漕ぎし始めた。


「だ、っから運転雑すぎんだろ!」

「知りませーん、乗客は黙ってて下さーい」

「この道ガタガタしすぎだっつの」

「ひゃーっふう!」