「ちょっとたっくん、消しゴム使うときは言ってってば」
「はいはい」
「見てこれ、字ガタガタになったやんか」
「あー、ごめんごめん、分かったから」
くしゃり、軽く由香の前髪を乱して、またノートに向かう達郎。
「もー、ぐしゃぐしゃー……」
由香は不満げに呟きながら、達郎から顔を背けて、片手で前髪を直す。
夫婦みたいだ、とぼんやり思って見ていたけど。
「……」
あれ。
……あれ。
何度も何度も、前髪を撫で付ける由香。
頬、耳、首筋。
俺から見えるところはすべて、さっきまでの肌色にほんのり赤が混じっていた。
これは、つまり、……そういうこと?
「柊さーん……、これインク出ないー」
「知るか」
「あうっ」
近寄ってきたみどりに、デコピンをひとつ。額をさするみどりを横目に、達郎へと視線を向ける。
そろそろと大人しく消しゴムを使う達郎の表情は見えない。後ろ姿だけだ。
「書けぬ……」
隣から聞こえる、しょんぼりした声は無視。
由香はようやく前髪を直し終えて、自分を冷ますように少し手で扇いだあと、ノートに戻った。
この町にも、そういうのはあるらしい。