席を奪われた俺は、みどりの席に座る。

授業までまだ時間があったから、分解されたままのボールペンを組み立ててみることにした。


「そういえば、みどちゃん由香ちゃん、知ってる?」

「なにを?」

「森ヶ山線、八月の終わりに運行再開になるみたいだよ」

「え、まじで?」


興味のある話題だったのか、今まで黙っていた達郎は後ろ向きに椅子に座り、女子の会話に入っていく。


「パパが言ってたの」

「へー、ついに決まったんかー」

「便利になるねー」

「ねー」


あ、バネがない。ボールペンを組み立てていた手が止まる。


「みどり、バネどこにいった?」


完成しかけのボールペンを左手に持ちながら尋ねると、みどりはパッと顔を向けて。


「柊もこの話聞きなよー」


と腕を引っ張ってきた。


……いや、あの、だから、バネは。

目的を果たせず、しかも引きずり込まれるという失敗。

俺なんかお構いなしに、みどりたちは会話を再開する。


「森ヶ山線っていう、この辺に終点の駅がある路線があってさ」


会話を再開、というよりは、俺に向けて説明を始めたような感じだ。