由香の言葉に、意識が逸れたらしい相澤は、指差された筆箱を見て、自慢げな笑顔を浮かべた。
「あ、これ?」
「それ、あたしも初めて見たー」
ボールペンの分解に飽きたらしいみどりは、俺の机に身を乗り出してそれを見る。
すぐ目の前に現れた小さな頭。
……近い。
こいつは本当に、そういう感覚がないらしい。
「これはねー、この間パパに買って貰ったんだー」
「へー」
「ブランド物だったから、五千円くらいしたかなー」
「すっごーい、可愛いね」
みどりがそう言って褒めると、相澤は満足したように笑う。
「みどちゃんも買ってもらえば? 猫に小判かもしれないけど」
「うーん、でも今のやつ気に入っとるしなー」
この小さい頭は、これが嫌味だと気付いていないのだろうか。
俺の今までの常識だと、相澤は確実に女子から嫌われるタイプだと思うけど。
ちらっと由香を見ると、由香は苦笑しながらもちゃんと話を聞いていて。気付いているけど、何も言わないでいるって感じだ。
この町は、大らかなところが多くて、すべてを受け入れるような包容力がある気がする。
いじめとか、てんで無関係なんだろう。
「柊、話さんのやったらそこ座っていい?」
ぼんやりしていると、いまだに筆箱で盛り上がっているみどりがそう言った。
「……まあ、別にいいけど」
「よっしゃ、ありがとー」
退くとすぐさま俺の席に座り、また話し始める。
目が合った由香に、小さく頭を下げると、微笑みを返してきた。